After Murder Park
「美しいな」
目の前の男は鋭い視線のまま僕の素肌を眺め、口元を歪めてそう言った。
「それはどうも」
僕は艶然と微笑んでやる。こういうのがお好みなんだろう?解ってるんだ。
口付けにも何も感じないが、僕は自ら唇を開いて男の冷たい舌先を吸ってやった。満足そうに応える愛撫を甘んじて受けながら僕は鳴海のことを考える。何だって良い。何だってするさ。
「早く下さい。我慢できない」
縋り付きながら、焦れたふりでそう囁いてやった。
「いけない子だな」
ああそうだ。嬉しそうだな。お前など死んでしまえ。
そんな思惑は微塵も出さずに、僕は男の衣服を脱がしに掛かる。
「ねぇ、あんな男よりも僕の方が良いでしょう?」
なんでもいい。なんでもする。
「だから余所見しないで、僕だけ抱いてください」
だからあの人に手を出すな。
男の上に跨り、貫かれて喘いだ。
なるべく淫乱に自ら求める。定吉は剃刀の様な視線で僕の顔を見上げている。好きなだけ蔑めばいい。僕を陵辱して気が済むのならばいくらでもご自由に。
「あっ、あ、あ、」
腰を揺するたびに泣きそうな声が出るけれど、どうでもいい。
「…君は」
僅かに眉根を寄せた定吉が口を開く。
「彼の為なら何でもするのか」
お見通しか。しかし動じる気にもなれなかった。どうやら僕はとっくに、深く思考することを諦めている。
「何の話です。僕が、好きで…しているだけ、ですよ、あ、」
動きながら喋ったので言葉が跳ねる。
甘い嬌声が混ざることすら恥ずかしいとも思わなかった。
「ああ、好い、あ、好きです、定吉さん…」
請われもしないのに媚びる。
言葉にも行為にも何の意味もない。いくら陵辱されても微塵も辛くない。ただあの人だけが綺麗でいてくれればそれでいいのだ。
事務所の階段を上がると、中から人の話し声が聞こえた。どうやら来客のようだ。
「やぁお帰り、ライドウ」
扉を開けば鳴海が顔を上げて僕を迎える。来客用のソファに腰掛け、笑顔で所長と談笑していたのは定吉だった。
ぴくり、とこめかみが震えるのを感じてかろうじて押し留める。
「いらっしゃいませ定吉さん」
腰を折って挨拶すれば、お邪魔しているよと涼しい声で定吉は応えた。
僕は密かに唇を噛む。何をしているのだ、この男。
「今日は何か」
「ああ、鳴海氏に少々協力を仰ぎたい事があったのでお願いにあがった」
協力、と僕は口に中で反芻する。何の協力だ。約束が違うじゃないか。そう声をあげるわけにもいかないので、仕方なく僕はにこりと微笑んでやった。
「そうですか。ウチは大抵の御用なら僕がお伺いしているのですが、」
「ああ、鳴海氏でなければいけない用事だ」
遮るような言葉に全身が総毛立つほど怒りを覚えた。そうですか、と震える声を押し殺して僕は帽子を下げる。
「鳴海さん、先ほど向こうの通りで大家さんに会いました。すぐこちらに寄るから鳴海さんを引き止めて置く様にと言われているのですが」
「えっ!マジかよ」
途端に鳴海は立ち上がり、焦ってばたばたと身支度を始める。
「ごめん、俺じゃあちょっと出るわ。大家が来たらてきとーに言っといて。あ、定吉、依頼の方後で聞くから」
慌しく事務所を出て行く背中を見送って、僕はふうと溜息を吐いた。
「…うまいこと追い払ったな」
くつくつと笑うその声の主を殺してやりたいと心から思う。
「何しに来たんですか。約束が違う」
睨み付けると定吉は笑った。
「鳴海さんには近付くなと言ったでしょう」
「他意はない。依頼だよ」
近付いてくる男は僕の腕を取って、ぐいと遠慮なく抱き寄せる。
「…やめてください、ここでは」
「なぜだ。そのために鳴海を追い払ったのではないのか」
定吉は面白そうに眼を細め、僕を所長のデスクに押し倒した。
「お前の悦ぶ声を聞いたら、何を依頼にし来たか忘れるかもしれんよ」
「んっ、あ、はっ」
服も脱がずに手袋をしたままの手で首根を押さえつけられ、机に顔を押し付けた酷く屈辱的な体勢で後ろから突かれた。
鳴海のデスク、いつも彼がいるその場所で別の男に抱かれている。
「あ、ああっ、あふっ…」
視線と同じ高さには灰皿があって、鳴海が口を付けた吸殻が沢山溜まっている。
「いつもより感じているな、この淫乱」
「あっ、ん、あー…」
応えるのも馬鹿馬鹿しくて声を上げた。鳴海に危害を加えると言われて、鳴海よりも僕を抱いてくれと言い出したのは自分だ。僕さえ汚れれば鳴海を守れると思ったのだが、この男はそれすら逆手に取って弄ぶ。あのとき本当はどうしたら善かったのか、もう解らない。
そんなことを考える思考も、激しく突き上げられてあっと言う間に滲んだ。
「好いのか?」
「ああっ、好いです、あ、もっと…お願いします、もっと…」
がたがたと揺れるデスクの音で気付かなかった。
視界が涙で歪んでいたので見えなかった。
「…お前ら、何を」
聞きなれた声が耳に飛び込んできたので、僕は大きく眼を見開いて顔を上げる。
驚愕の表情を浮かべた鳴海が扉の前に立っていた。
「なる…」
いつから見られていた?どこから聞かれていた?
思わず身体を離そうと抵抗する。しかし定吉は僕を押さえつける腕を緩めなかった。
むしろ覆いかぶさるように僕を抱き締め、笑いを含んだ声で言う。
「…見ての通りだよ、君」
言い訳することすら思い付かなかった僕は、遠ざかる足音を聞きながら絶望的に達した。
2006/05/31
定吉×ライドウでガチエロです。やっぱり鳴海さんに登場して頂きました。
定吉は本当はもっと人間的な人だと思うけど、やっぱこうなっちゃった…ごめんなさい…。
タイトルはthe auteurs「After Muder Park」より。
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